流れる時間


「だから・・・・・。」



フルフルと震えながら、怒りを溜めるルビィ。



「アカンって言うたのにぃーーーーーー!!!!!!!」



溜めた怒りを、ストレートに発散された。


発散された相手は俺。




「なんで、あんたはそうサラッと言うてまうんや?!」

「んなコト言われたってよ、ルビィが・・。」

「うちが何?!」


すげぇ見幕で睨まれ、情けなくも何も言えなくなってしまう。

同じ女でも、ガーネットとルビィは比べようにならない程違うよな。

ま、ガーネットも静かに冷たく睨む時は恐いけど。


「ルビィがブランクのコトを・・・」

「話しが分かるええ奴やって言うただけや。」


またしても俺の発言が、ルビィの見幕とするどい突っ込みによってかき消される。


事の発端。


昨日、ルビィと劇場船を掃除していた時の、ごくどこにでもある、普通の会話。









「なぁ、ジタンは姫さんと付き合うて、どのくらいなん?」


雑巾でステージの階段を拭いていた手を止め俺に質問してきた。
どのくらい・・・・。


「・・・・・・それなり?」

「はぁ?なんやそれ。」


別に付き合おうとか言って、一緒におる訳じゃなかったからなぁ、俺達。

いつからって聞かれたら・・・・やっぱあの日の劇の公演以来になるのかな?

う〜んと言って考える俺に、また質問が来た。


「ジタンは今、幸せなん?」


少し大人っぽく言うルビィの言葉と声色に、やっぱ年上だという事を実感させられる。


「そうだな。」

「ふーん、そうか〜。」

「?」


そう言うと、また階段の拭き掃除を始める。

ルビィがこういう、真剣じみた話しをしてくる時って確か・・・。


「恋でもしましたか?ねえさん。」


ルビィの側でポツリと発言。気配を絶って近づいた為か、ビクっと驚き

雑巾で顔を殴られる始末。


「気配絶って近づくなや!あぁ・・びっくりしたわ・・・・。」

「びっくりついでに、謝れ。」

「そっちが先に謝ったら、こっちも謝ってあげへんコトもないんやけどなぁ。」


お互い、ギリギリとにらみ合う。

にらみ合ってても話しにならないと、俺から折れさっきの話しを続行させた。





「恋なんかしてへんし、こんなトコにおったら恋も出来へんわ。」

「んなコト言ってさ、結構公演した後客に話し掛けられてるじゃねぇか。」

「そして、うちのこの方言聞いたら、たいがいの男は去って行きよるけどなぁ。」

「・・・・・・・・・・。」


遠い目をして言うルビィが心なしか、可愛そうに見えてしまった。

確かに、あの劇の時の言葉使いをしてる奴が、こんなすごい方言使ってるなんて

誰も思わないだろうな。


「・・・・それは知らなかったとはいえ、・・・・スミマセン。」

「何で、カタコトやねん。腹立つから謝んな。謝るんやったら、気持ち込めて謝りや。」

(どっちなんだよ。)


相変わらず、ぶすっとしたままの表情で俺を睨みつける。

「お前さ・・・」

「誰がお前やねん?」

「・・・・ルビィさんは、ブランクとかどう思いますかね?」

「は?ブランク?」


俺が男でも、かっこいいと思うブランク。マーカスなんて尊敬し過ぎて兄貴と呼ぶ始末。

その他の奴らも、ブランクの言うことは聞くし、

ボスもいつも大事なコトはブランク通して俺達に伝える。

んで、客のお嬢さんから人気のあるブランク。

俺と180度性格違うもんだから、浮いた噂は耳にしたコトがないけど。


「どう?」

「どう言われてもなぁ。別に何とも思わへんし・・・。」

「マジで何とも?これっぽっちも?」

「ん〜・・・まぁ話しの分かる奴やとは思うけど。」




















「っていう会話の流れから、なんで好きやっちゅー話しになんねん!!」


はぁはぁと息を切らしながら怒鳴りまくるルビィが、内心ちょっとおもしろい。

おもしろついでに、思わず顔が笑ってしまった。


「ほおぉ・・・。人が怒っとるコトが・・・・・そんなにおもろいんかぁーー!!!!!」

「いや、そういう意味じゃ・・・・」

「言い訳すんなや!」


そう言う否や、側にあったものを次々と飛ばしてきた。

怒りはここまで人を変えてしまうものなのか‥‥。

「だいたい、うちはブランクのコトなんか・・・・・!」

「俺が何?」


ルビィの後ろのドアから現れた、噂の彼が。

投げまくった物が散乱している床を見て、ブランクが呆れたような顔を見せる。


「こんなに物投げやがって、あ〜あ、ガラスの花瓶が割れてらぁ・・。」

「それは、全部ジタンがいらんコトを・・・・」

「ルビィ、一週間、皿洗い。」

「・・・・・・!!」


手に持っていた、劇場船の形をした置物に渾身の力を入れて俺に投げつけてきた。


「うちはな、ジタン・・・・。うちは、こんな赤髪の奴なんか大っ嫌いなんやぁ!!!!」


そして、後ろのドアを景気よく開け、走り去ろうとした。

その背中に、ブランクの一声。


「風呂掃除追加だ、ルビィ。」

「お前・・・・。」

「ジタンは、この部屋の後片付けしろよ。俺も手伝うからさ。」


ほうきを手にしていた所を見ると、俺達が喧嘩(ルビィの一方的な)していたことに気付いてたんだろう。

あれだけ叫び怒鳴り散らせば、誰でも気付くと思うけど。

渡されたほうきで、床を掃きながらガラスの破片、その他もろもろを拾う。

ガチャガチャと片づける音だけがする。

なぜか無言のブランクと俺。

実を言うと、ルビィの話しをブランクには一切してなかったりする。

“言った”とルビィに言ったら、どんな反応をするかの、タダの興味半分。

んなもんだから、あの時点で、ブランクが現れたのは計算外な訳で。

・・・・・どうしたもんかねぇ・・。



「ルビィがここまで怒るのも珍しいな。ジタン、何かしたろ?」

「いや、俺は別に何も。」

「・・・・・姫さんだけでは物足りず、ルビィまでも・・・・」

「違う。断じて違うから、変なコト言うな、想像するな。」


ま、そりゃそうだわなっと言って、持ってきたゴミ袋をブランクが広げ、割れた破片を入れていく。

そう言えば、聞いたコトないかも、此奴の恋ばな。


「なぁ、ブランクは彼女いねぇの?」

「いねぇよ。・・・・・・・・・成る程、分かってきた。」

「ん?何が?」

「喧嘩の原因。」

「?!へ?」

「あいつが俺のコトが何たらって言っていたってコトは、お前がルビィは俺のコト好きとかなんとか言ったんじゃねぇ?」


・・・・・・・・・。恐ぇよ、ブランクさん。いつもと同じ顔しているのに、ここまで恐怖心を感じるのは

俺の錯覚ですか・・・・・??


ガタッとイスを引きずり出し、よいしょと座るとブランクは俺の目を見て話し出した。

その目がまた真剣。


「ルビィの前で、恋とか好な奴の話とかはタブーだぜ。特にお前は。」

「俺?特にって何だよ?」

(その前にタブーの部分で疑問に思えよ、バカが。)

「何なんだよ?ブランク。」


さっぱりわからん。別にルビィとその話題で話すのは初めてじゃないのに。

ブランクと仲悪いって訳でもないし。


「とにかく、ルビィの前でその話題は伏せるコトだな。」


何か納得いかない部分の方が100%多いが、ブランクがそこまで言うのもあんまり無いから

きっと、何か訳があるんんだろう。


「・・・・・分かったよ。」

「あんま納得してねぇだろ、お前。」

「分かった、分かった、分かりました〜。」

「ホントかよ。まぁジタンならそのうち分かると思うけどよ。」

「?何が?」

「さ、掃除しろ、掃除。さっさと終わらせて晩飯するぜ。」

「おい。」
















「皿洗いは順調か?」

「・・・・・・・・。」

晩飯が食い終わった頃。

一応俺が皿洗いを押し付けた訳だし、泣きながらされてたんじゃ困るから様子を見に来た。


「うるさいなぁ、冷やかしに来たんやったら向こういき。」


ま、こいつが泣くなんてコトありえねぇんだけどさ。

ルビィが泣くコトかぁ・・・・。

いろいろ昔のコトを振り返りながら、ルビィが洗った皿をタオルで拭いていく。


「ちょっと、ブランク。邪魔やから向こう行ってって。」

「手伝っている人間に、邪魔はねぇだろ。」

「それが邪魔や言うてんねや。誰も手伝ってなんか言うてへんやろ。」

「ゴタゴタ抜かす前に、しっかり皿洗いやがれ。」

「・・・・・・・!・・・・・・心配は・・・・・いらんねん・・・。」


ポソっと言うと、また食器を洗い出す。

今にも泣きそうな顔。・・・・・・昔の傷深めてしまったか?


っていっても、俺はジタンと違って、女に優しい言葉〜なんて思いもつかなきゃ、掛ける気もない。

俺が言えるコトは。


「別に無理して忘れるコトないだろ。まだ好きなら好きでいたらいいんじゃねぇ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・。だから・・・あんた嫌いやねん・・・・。」


洗う手を止め、下を向き泣いてしまった。

泣かすつもりはねぇんだが、なんで俺がゆうと、泣いてしまうかねぇ。


ジタンが未だに分かってないってのも不思議だけど。



ルビィが泣いたのを見るのは二回目。


ジタンと姫さんがうまくいった時。





好きな奴から、「好きな奴だれ?」とか聞かれたら、堪えるだろ?

不器用なんだよ、ルビィも。

ずっとジタンのコト好きだったのに、自分の思い伝えきれず、

その相手の女が、一国の王女で、ジタンが今までの遊びじゃなくて本気になってちゃぁ、

こいつも何も言えねぇだろうがよ。


ホント、不器用な奴ばっかだぜ、タンタラスの連中は。


そのおもり役の俺の身にもなってくれよな。




はぁとため息もつきたくなるけど、今は。



「さっさと終わらせて、今日のミーティングだ。」


ポンポンと頭をたたき、ルビィを泣きやませる。

コクンと頷き、鼻をすすりながら皿洗いを再開させた。













ジタンは知らへん。

うちがずっとジタンのコトを好きやったって。


悔しいけど、あんたらはお似合いやからうちが何かいうってコトはない。


やけど、

お願いやから、ジタンからその話しはせんといて。


思い出すから、閉まっておいたうちの感情。


その度に悲しくなるコト、ジタンは知らへんやろ?



やから、言わんといて。




うちも、今はこの距離が幸せやから。



いつまでも、ダダこねてる小さい時のうちやないから。


ちゃんと前に進むから。


そやから、


もう少しだけ、あんたのコト好きでおらせて。








End



桜つゆみ様からいただいたキリリク小説でした。
読んでいる内にそれぞれのキャラの心境がストレートに伝わってきました。
特に、この話のなかでのキーマン(?)であるルビィは、
その自分の心境が瑞々しく描かれていて、素敵な作品だと思いました。
やっぱりルビィだって恋の悩みとかはあるんですね。
いつもは関西弁で五月蠅いほど騒いでいる彼女も、
こんな心境にいると、悲しくて悲しくてたまらないんですよね。

桜つゆみ様、素敵な小説を書いていただき本当にありがとうございました。


モドル